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【コラム】シンクタンクの「G20」会議 / 加藤洋一(研究主幹)

 

シンクタンクの「G20」会議
Globalizationやサイバーなど、世界が直面する難問を議論
米外交問題評議会(CFR)の “Council of Councils” に初参加

加藤 洋一 (RJIF研究主幹)

 5月の連休後半から1週間あまり、米国・ワシントンに出張した。外交政策の研究に関して米国内で、一、二を争うシンクタンク、外交問題評議会(Council on Foreign Relations, CFR)が開いた会議に出席するためだ。
名称は、”Council of Councils”。 世界各国を代表するシンクタンクの代表を一堂に集め、直面する政策課題を議論しようというイベントであり、船橋洋一理事長の名代で参加した。
メンバーは、主催のCFR をはじめとする世界25カ国の計29機関。英国からは「チャタムハウス」として知られる王立国際問題研究所と、英国国際戦略研究所(IISS)。豪州からは ローウィ国際政策研究所、中国は上海国際問題研究所。いずれもそれぞれの国でトップクラスのシンクタンクだ。この数と顔ぶれは、おおよそ主要20カ国・地域会議(G20)に倣ったものだという。いわば「シンクタンクのG20」というわけだ。

 2012年から毎年1回、ワシントンかニューヨークで開かれていて、今年で6回目。RJIFは今回、初めて招かれた。日本からはこのほか、言論NPOが参加した。
 そもそもこの会議が立ち上げられた背景には、21世紀に世界が直面する外交課題は、いずれもその性格が「グローバル」だという認識がある。したがって、有効な対応策を取りまとめるには、主要国の外交専門家やオピニオンリーダーがお互いに忌憚のない意見交換をすることが不可欠として、会議が始められた。
 自由な発言ができるように、会議では「チャタムハウス・ルール」が適用された。会議で議論された内容は、外部に伝えても構わないが、誰が何を言ったかは明らかにしない、ということだ。この原稿もその原則に従って書くことにする。

 3日間にわたった会議で話し合われたのは、次の5つのテーマだった。
(1) 通商・貿易――環太平洋経済連携協定(TPP)に代表されるようなグローバルな通商・貿易は、保護主義の台頭が進む中、生き残れるのか。
(2) サイバー――攻撃や犯罪が広がるサイバー空間で、国際的なルールづくりはできるのか。
(3) 北朝鮮――核ミサイルの開発に成功したら、世界はどう対応したら良いのか。
(4) 欧州――英国の撤退 (Brexit) で弱体化する欧州連合(EU) は存続させる価値があるのか。
(5) 中東――当面、中東を安定化させる現実的手立てには何があるのか。

どれも、すぐには答えの出ない難問ばかりだ。各国を代表する「知性」が、知恵を絞りあって、解決策の模索に取り組んだ。
このうち、会議冒頭のセッションで取り上げられ、最も重要なテーマと位置付けられたのが「通商・貿易」だった。
主催者が事前に示した論点は、「各国政府は、保護主義に対抗しつつ、国際的な通商・経済協力を、国内で受け入れられるようにするため、何ができるか」だった。

パネルディスカッションでは、ベルギー、カナダ、ポーランド各国のシンクタンクのトップ3人がパネリストとして登壇した。
実際の議論は、「Globalization は死んだのか」「民主主義は、Liberal International Order (自由で開かれた国際秩序)を維持するには十分なのか」といった司会者からの問いかけに従って進められた。

 主な発言は次のようなものだった。
「これまでのGlobalization が”welfare enhancing globalization”(国民の福利を増進するもの)だった時代は1990年代で終わった。先進国ではGlobalization が進むことで、逆に労働者の暮らし向きが悪化する事態を招いている。このため、『現状維持』を求める動きが強い。米国でトランプ大統領への支持が伸びた理由のひとつだ」
 「各国政府は、Globalizationが必ずしも前向きの成果を生むとは限らない現状について、真実を語らなければならない」
「一方、EMEs (Emerging Market Economies、新興市場経済国) では、依然として、Globalizationが成長のカギとなっている。民主主義化が遅れている中国では、大衆の関心をそらすために、アイデンティティ政治と健全な経済政策が必要となっている」
 「Globalization と密接な関係にあるのが、技術革新と自由貿易協定だ。技術革新はこれまで労働者をより豊かにし、雇用を増やす効果があった。問題は『次の波』はそうはならないかも知れないことだ。『自動化』」と『デジタル化』」は、雇用の拡大にはつながらない。むしろ人口の多数が切り捨てられることになる。これは中国とインドだけの問題ではない」
 「技術革新と自由貿易協定はともに、グローバルトレンドの一部なので、それを分けて考えることは現実的でない」
 「技術革新の『次の波』の影響で、Globalization の姿が変わる。生産現場は住居により近くなり、知的財産(IP)の開発に戦略的に投資し、保有している個人や国家が大きな収入を手にするようになる」
 「Globalizationに対する懐疑は、疑いの余地のない現実となっている。しかし、Globalization自体が問題なのか、あるいはその進め方が間違っているのかを考えなければならない。Globalizationは進み過ぎてしまったのか、あるいは逆にまだ不十分なのか、ということだ」
 「根本的な問題は、経済のGlobalizationをいかにして、より持続可能とするかだ。そこで各国政府が問題に対応できるよう、政府の権限強化の重要性が語られた。しかし、それにはジレンマが伴う。例えば、税制だ。各国の経済主権の範囲内なのか、あるいは各国間の開かれた議論に供せられるべきなのか。Globalizationは、ある意味で主権を制約する要因となる」

 はっきりとした結論が出たり、合意ができたりするわけではなかったが、問題の本質に触れる議論が、2時間近くにわたって繰り広げられた。
 「通商・貿易」をめぐっては、このセッションに加えて、オバマ米政権でTPP交渉に当たった元政府高官が「Globalization と世界貿易の将来」と題する基調講演も行うなど、手厚い構成だった。

 講演の後、この元政府高官に対して筆者は、米国の参加しない、いわゆる「TPP 11」について質問した。日本を含む11カ国で合意されて立ち上がった場合、米国が改めて加入するにはどんな困難が予想されるのか、それを乗り越えることはできるのか、という趣旨だった。
 元政府高官はまず、「私がいかに楽観的だといっても、トランプ大統領が、これまでの立場を完全に翻し、TPPに戻るということはちょっと考えにくい」と語り、当面の可能性は否定した。
 しかし、さらに続けて、このように語った。
「最も楽観的な見方をすれば、『TTP 11』が成立する一方、米国もNAFTA(北米自由貿易協定)や日本との二国間自由貿易協定を進めれば、結果としてTPPに非常に似通ったもの(通商枠組み)が出来上がる。将来の米国の大統領が、そうしたいくつかの断片的な通商合意を一つにまとめようと言えば、名称は異なっても実質的にTPPが再生されることになる」
 そして最後に「私は、これは可能だと思う」と強調して、締めくくった。

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